コラビット・横山幸次(写真左・以下横山):木内様、本日はお忙しい中インタビューをお受けいただきありがとうございます。不動産売買仲介業務全般・査定業務で、効率という観点で感じていた課題がございましたら、以下の観点でお教えください。
野村不動産ソリューションズ・木内様(写真右・以下木内様):まず業界全体の視点から見てみると、査定は多様な形で進化を遂げており、例えば私が不動産仲介業務に携わっていた頃の査定書は、単純な紙一枚の手作りのものが基本でした。
その後、次第にテクノロジーの進歩と業者間の競争が激化していき、例えばハウスクリーニング、ホームステージング、インスペクションなど、多岐にわたるサービスを提供することで差別化を追求し、競争を繰り広げてきました。
しかし時間の経過と共にサービスは各社ほとんど同じメニューとなり、サービス自体では差別化が難しくなっていきました。そこで重要となるのが、「提案力」と「人間力」です。
が今、売買仲介業務にとってさらに重要になってきていると感じます。
その2つの中で、営業自身の素養、すなわち人間力というのは容易に磨き上げることができるものではありませんので、提案力強化に重点を置くことが、戦略的に重要な要素であると考えています。
横山:提案力を磨いていく上で、共通のフォーマットとして「提案資料」の標準化・高品質化に目をつけられたということですね。
木内様:そうですね。不動産価格は多くの指標から構成されているので、質の高い提案をする場合、様々なデータをまとめて出す必要があります。
ただ、高品質な提案を可能にする資料作成を目指すと、それには多くの時間を要します。
なぜなら、必要なデータが様々な場所に散在しているからです。例えば路線価については、路線価のウェブサイトを訪れて情報を取得し、施設情報も同様にウェブサイトから取得するなど、調査作業は無尽蔵に広がります。
どれだけ熟練した社員であっても、1件の物件について調査するだけで1~2時間は必要になるということが大きな課題となっていました。
熟練した社員は自身の商談での成功パターンを逆算してテンプレートを作成し、それを繰り返し使用して効率化を図ることがありますが、そのノウハウの横展開が難しく、全社的な展開が困難であるため「査定業務に時間を費やす」という問題が絶えず我々の課題として残っていました。
横山:「査定業務に時間を費やしてしまう」という業務課題がありつつ、「個々のノウハウが横展開・標準化しない」という課題も同時にあったというところでしょうか。
木内様:そうです。大手各社がそれぞれ独自のフォーマットを作成し提案書の効率化を図っている中で、我々もその領域に踏み込むことを決意し、この度査定システムの導入に踏み切りました。
また、不動産仲介の提案の肝は、今も昔も「お客様に会い、コミュニケーションを取ること」だと考えていますので、お客様とお会いできる回数をどのように増やすか、 どれだけ時間を確保できるか、という点はいつも大切に考えていますね。
ただ、提案力の強化という側面において資料の質は落とせないので、「提案品質と効率化の両立」が大きなテーマとなります。
横山:木内さんは色々な不動産仲介関係者とお話する機会が多いと思うのですが、 業界の方、他社の方も同じぐらい手間がかかってるというお話をされてますか?
木内様:そういう印象はありますね。特に会社規模が大きければ大きいほど、やはり業務効率という論点が前面に出てくる印象です。残業を減らす、休日を増やすといった働き方改革に関連する話は、社内各所からも要請は強いです。
横山:今お話に出た課題解決、業務効率化に向けて貴社で重点においた考え方・取り組みをお教えください。
木内様:「査定の質が高く、売主様に伝わりやすいデザイン、かつスピーディーに作成可能な提案資料」であることを最も重視しました。
検討を進める中で多くの査定システムを検討したのですが、作成スピードが早いものはたくさんありました。ただ、我々が求める質を満たすものという観点から考えると、そういったシステムはなかなか見つからなかったです。
査定品質・見栄え・速さ・お客様からの見やすさ、この4つが備わっているもの、これが我々が求める査定資料という結論になりました。
横山:今多くの不動産仲介会社様とお話しさせていただく中で、「査定品質」と一言で言っても、会社様によって求めるものはさまざまなんです。御社の定義する「査定品質」とはどういうところだったでしょうか?
木内様:定義・・掘り下げて考えると、「ロジック」ですかね。お客様に査定について説明するシーンで「なぜこの価格なんですか」と聞かれた時に「システムでこう出たからです」という回答は、不動産のプロとしてあってはならないですよね。
それではほとんどのお客様が納得せず、満足度も当然低くなります。やはり価格を決めるロジックが査定資料に表現されていないと、営業によっては論理的に説明ができない可能性が出てきてしまいます。
横山:確かに、私が現役の営業だったときはそういう査定システムがなくて、自分の査定ロジックを先に作ってから後でそれに必要な資料を集めていくというやり方で査定資料を作っていました。
何時間もかかるし、属人的で他の人に展開できないし、なかなか大変だった記憶があります。
木内様:会社規模が大きくなると、特定の優秀な人材の個人的な能力に依存するだけでは不十分で、再現性があり分業にも対応でき、誰でも使えることが大切なんですよね。
こういったシステムを導入するときに当社では社員に向けて研修を行うのですが、システムが難しすぎると定着が悪いです。
ですので、研修をして社員から「使いやすい・理解しやすい」というフィードバックをもらうことも社内の浸透には大切だと思っています。
また、ロジックは重要ですが、説明がくどくならないことも同様に重要な要素の一つです。お客様にどこが大切なポイントであるかが伝わらなくなってしまうためです。
基本的にお客様は答えを先に知りたいため、結論はシンプルに表示していてスピーディーに読み込める内容、かつロジックはしっかりとしていて、何か質問いただいた際は営業がしっかりと説明できる提案書、そんなところを重視して資料を選定していました。
コラビットさんの「AI査定プロ」は研修で現場の理解度も高く、ロジックもありながら使い勝手もくどくなくシンプルな作りで、我々の要件を満たしていました。
横山:「AI査定・データの活用」は貴社の課題解決にとって、どのような位置付けだったでしょうか?課題についてダイレクトに「効く」存在でしたでしょうか?
木内様:全体のバランスを取りながら商談、提案資料のクオリティを上げることが課題だった中で、AI査定やデータの活用は重要な存在になると考えていました。そうなると、数社程度しかパートナー候補はいなかったのが本音です。
横山:その中で弊社と組んでいただいた決め手はありますでしょうか?
木内様:コラビットさんの最大の魅力は、その深い不動産知識にあります。その知識は、元々大手不動産仲介会社で活躍していた不動産鑑定士である横山さんの存在により裏打ちされています。
彼は企画を主導し、価格形成のAIロジックも監修しています。仲介業務の実践的な知識と鑑定の理論的な知識を兼ね備えた専門家が開発に関与しているという事実は、非常に重要な要素でした。
不動産テック企業の中には、不動産取引の微妙な特性や商談の慣習、価格形成のロジックなど、不動産業界の根本的な要素を十分に理解していないシステム開発者が作る査定システムも存在します。
しかし、コラビット社ではそのような心配は全く必要ありませんでした。また、カスタマイズの依頼をする際にも、自分の要望がスムーズに伝わり、ストレスなく機能を逐次改善していけるという点は非常に快適でした。
まれに、横山さんの不動産鑑定士としての矜持から我々の要望を採用してくれないケースもありますが、そんな正直な職人気質も信頼しています。
「デザインの見やすさ」も、安っぽさが一切なく、必要な情報が直感的に理解できるように表現されていた点も、非常に大きな魅力でした。
横山:以前別のプロジェクトにも関わらせていただいて、社内事情をある程度わかっていたのも提案の現実味があり我々もやりやすいところはありました。
木内様:そうですね。弊社のプロジェクトチームメンバーとのコミュニケーションコストが低いのも大変助かっています。
横山:多数の会社の中から弊社を選定いただき、パートナーシップを結んでいただいた経緯を教えてください。
木内様:データ活用については、我々は以前から「ラボ」と名付けた特別チームを設立し、営業資料や査定システムの研究、そしてパートナー先の探索に取り組んできました。営業活動の効率化と人間依存の解消を目指し、「どのデータをどのように利用するか」というテーマは、我々の組織でも重要な議論の対象でした。
多くの候補者や企業がリストアップされましたが、以前からコラビットさんが運営するAI査定のHowMa送客サービスと関わりを持っていたこと、そしてコラビットさんのデータが非常に優れていると感じていたことが、私たちの選択の決め手となりました。
御社のデータを活用すれば、私たちが目指す目標を達成できると確信していました。それが、コラビットさんを選んだ主な理由です。
横山:長期間にわたって査定プロジェクトやデータ活用を準備されていたんですね。
木内様:正確に言うと、元々ラボで最初に取り組んだのは、査定のプロジェクトではないんですよ。最初は、購入検討のお客様の案内の時に、マンションのパンフレットをデータ面でも充実させようというプロジェクトをやっていて、その次の課題としてデータを使って査定もやろう、という流れでした。
横山:2社くらいに選定が絞られたというお話を伺っていますが、最後の決め手はどういうところだったでしょうか?
木内様:両社ともに、我々が理想とする書類を作成する能力は同じでしたが、御社は売買事例のデータが非常に充実しており、我々が独自にデータ収集する必要がないほどでした。
これが最終的な選定の決め手となりました。現場の知識を持つことで、何が必要なデータなのかを理解していると感じ、その安心感は大きな価値を持っていました。
横山:プロジェクトを推進し、コラビットの査定書システムの運用をスタートしたことでの成果・変化を教えてください。
木内様:先ほども挙げましたが、業務の効率化と残業時間の削減という点で非常に大きな変化がありました。
しかしそれ以上に、査定書や提案書を既存のものから改良し全社で統一するという動きの中で、「こういった形にしたい」という自分たちの意見を反映させる意識が社内で生まれたことは、組織の成長と進化にとって非常に重要な変化の一つであったと感じています。
ということを現場の店舗と本部ですり合わせできたことは、データ活用や提案書の選定といった今回の単なるプロジェクトを超えて、会社全体の成長と進化を促す重要なステップとなりました。
コラビットさんは査定書システムを作るだけでなく、当社社員に向けての査定研修などしっかりやっていただいていることも心強いです。横山さん、引き続きよろしくお願いします。
横山:現場を離れてしまった身として、百戦錬磨の営業の皆様に査定のコツを教えるのも、恐れ多い話ですが、これからも精一杯務めさせていただきます。
お話は変わりますが、弊社の査定書・提案書システムに対する店舗の皆様からのフィードバックがあれば教えてください。
木内様:査定書の中にストーリー性があり、非常にわかりやすいという声をもらっています。印刷物ではなくURLで査定書を共有できる点も、データ保管やペーパーレス化の観点から高く評価されています。
さらに、営業がそれぞれ作成している独自資料を自由に差し込むことができるという自由度の高さも、営業にとって魅力的な要素となっているようですね。
これらの要素が組み合わさることで、より効果的な営業活動が可能となり、結果的にお客様へのサービス向上につながっていると感じています。
横山:今後、貴社の仲介業務の発展に向けて、不動産データ活用の戦略・今後の業務課題や解決目標を教えてください。
木内様:今後取り組みたいことはたくさんあるのですが、今回の査定書プロジェクトで言えば、収益物件や一棟物件の査定、大規模なマンション用地の査定など、より複雑な物件の査定も対応できるようになることが目標です。
このプロジェクトを通じて、査定に必要なデータの統合が進んだと感じています。活断層やハザードマップなど、かつての査定書には含まれていなかった情報が取り入れられたことは大きな進歩です。
今後もお客様に必要とされる情報を提供できるよう、私たちと共にデータの整備を進めていけることを楽しみにしています。これからも一緒に成長し続けましょう。
横山:今回の査定書プロジェクトを足がかりに、複雑な案件・大きな案件にも対応できるプラットフォームを、ご意見をいただきながら弊社のデータを使い実現していければと思います。本日はお忙しい中お時間を頂戴しまして、ありがとうございました。